東急文化会館の屋上にはゲームーコーナーがあり、
その下の階にあるプラネタリウムのドームが死角になって見えない場所がある。
一時を過ぎた頃そこにいけば、大抵知ってる奴が何人かいる。
三段式警棒を意味なく出し入れしてる奴、バタフライナイフをカチャカチャする奴、寝てる奴、金の勘定をしてる奴、ギターを練習する奴、何もしていない奴。
いわゆる溜まり場という所だ。
そこから何処かへ向かったり、そのまま暗くなるまで話をしたり、
休みの日以外は学校のように通っていた。
真っすぐに家を出た僕は、5時間目を待たずに学校を出た佐久間とそこで合流した。
「ちす」
「ちす。タルくね」
「どうだった?」
「いや、マジッパなかったぜ」
昨日放送された、一夜限りでキースがパーソナリテイーをつとめた「オールナイトニッポン」を録音したテープを佐久間が持って来ている。
普段ほとんどメディア露出がないキースのプライベートトークは貴重で、
もうすぐ発売になる2ndAlbumから新曲もオンエアされたらしい。
昨日は母親とのトラブルで結局放送を聞けなかったので、
とにかく一秒でも早く聞きたかった。
佐久間のウオークマンのヘッドポンを自分の物のように耳にねじ込む。
ワンテンポ遅れて佐久間も耳にハメた。
♪「キースのオールナイトニッポン!チャラッチャ、チャッチャララ〜チャッチャチャ」
♪「どーもこんばんわ。キースです。今日はツアーももうすぐxxxxメンバーっxxxxxってくxxxxxx」
ーキースだっ!ー
♪「xxxxないだxxxxジル酒くさいよ〜xx」
BASSのジルはかなり酒に酔っている。ジルらしい
♪「xxでわ聞いて下さい。2ndAlbumからDays!」
一気に緊張が走る。
目をつむって全神経を片耳に集中させる。
「♪!!」
フランジャーギターのリフからリズムイン。
「♪!!!!」
息が苦しくなり、何かが頭を突き抜けていく。
積み重なった日々の寂しさも、また繰り返すであろう母親とのトラブルも何処かに隠れた。
そのサウンド全てが衝撃的で、曲が終わるとなぜか僕は笑っていた。
佐久間はそんな僕を見て嬉しそうにしていた。
「うおーマジっパネーな」
「コレlive一曲目でよくねー?」
「いや、やっぱアタマはBloodでしょう」
「まー確実にliveでやるな!。コレ」
「いや、ヤるでしょう!」
「つーかギター超ムズそうなんだけど」
「お前ならすぐ弾けるだろ」
「バカ。無理だから」
「いや、すぐ弾けるようになんだろ」
佐久間はよく褒めてくれた。
いつも自信のなかった僕は、しばらくの間ギターを弾いて聞かせられるのは佐久間の前だけだった。
学校をサボってギターを練習し続けたのは、佐久間に褒めてもらいたかったからなのかも知れない。
ー当時僕は「DESIRE」というキースのコピーBANDを組んでいた。
BAND名は言葉の響きが気に入ったから付けただけで、欲望という英訳の意味は全く関係ない。
他のメンバーはキースファンではなく、僕のエゴを強引に押し付ける形で結成したBANDだ。
街の小さなライブハウスで初liveが決まった。
「俺今度Liveやるから来いよ」
「タリーな」
「小僧、殺っちゃうぞコラ」
「ウソだよ。スゲーじゃん。何時よ」
1200円の一枚目のチケットを買ってくれたのは佐久間だった。
当日、30人程の友達とその連れが集まった。
僕はキースと同じようにメイクをして髪を立て、精一杯キースになりきり、
客席にいた佐久間もまた誰よりも拳を突き上げてノってくれた。
たーちゃんは髪を掻き上げげながら難しそうな顔をしている。
ほんの25分。酷い演奏ではあったが、僕達は本当のキースのLiveのように熱くなった。
ー終了後、たーちゃんはすぐ帰り、打ち上げを兼ねて残った仲間十数人と井の頭公園で朝を待った。
周りでは缶ビールとタバコを手に、それぞれが有り余ったエネルギーを発散している。
僕は何か嫌な事を思い出しそうな気がして、メイクは落とさず、髪は立てたままにしていた。
佐久間は興奮している。
「お前やっぱスゲーよ!完璧に弾けてたじゃん!」
「いやー結構ミスってたろ」
「いや、マジプロになれるって!」
「あ?ムリ、ムリw」
「イケると思うんだけどなー」
「...」
「つか、明後日どうするよ」
「朝イチで買い行くデショ!」
明後日はキースの2ndAlbum発売日。
僕達はそのままのテンションで話続けた。
空がうっすら明るくなり、僕達は吉野屋で大盛りを掻き込んだ。
家に帰ると、僕は夢中でギターを弾いた。
もっと上手くなって、また褒めて貰えるように。
ーliveまであと少しー
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